丸谷秀人のブログ

エロゲシナリオライター丸谷秀人の棲息地。お仕事募集中

もういない

 

 キリヤマ太一はもういない。

 もう2度と会えないし、あのエロ素晴らしい絵が増えることもない。

 コミケ会場へ行っても、新刊が出ていることもない。

 一緒にエロゲーを作ることもない。 

 

 なんてこった。

 

 彼は私よりも若かったのに。

 彼が私より若いことを知った時『今まで自分は何をしていたんだろう……無だ!』と絶望的な気分になったというのに。その彼の方がこの世から消えて、私はまだここにいる。不条理である。

 

 三ツ矢新がこの世からいなくなったと報された時も信じられなかった。なにを言われてるのか判らなかった。彼もまた私よりも若かったから。それなのに、キリヤマ太一までとは! みんな早すぎるよ。

 

 最初に組んだのは『輪恥』という小規模なゲームだった。なにを描いてもらってもうまかった。特におっさんがうまかった! それなのに私より若いんだよ! 絵を見る度に、なにやってんだよ私はって思った。あの頃、彼はグラフィッカーだけやってたかったらしいけど、あんないい絵を描けるヒトが原画から逃げられるわけがない。

 

 とか思ってたら、なんと、キリヤマ太一から企画書が飛びだした。

 不思議だった。あんなに原画家やりたくないって言ってたのに、自分から言い出しっぺになるなんて。

 

 すごい企画書だった。

 

 『メイドさんとエロエロするゲーム』とだけ書いてあった瞬間。こいつはスゲー奴だと思った。

 楽しい仕事だった。毎日毎日出社しているあいだギャグだけを考えていた。エロゲーなのに。アイデアを思いつくと会社中を歩き回り、思いついたネタをしゃべってまわった。我ながら迷惑な人間だった。

 そのあいだもキリヤマ太一は黙々と原画を描いていた。すげーヤツだった。

 

 完成した時。もう二度と原画はやらない。みたいなことを彼はのたまわった。

 

 なのにまた彼から企画書が飛びだして来た。

 

 企画書の最初に『SEXFRIEND』と書いてあったのを見た瞬間も忘れられない。こいつは売れるぜ! と思った。なぜそう思ったのかは判らない。でも本当のこと。

 このゲーム絶対に書く! 書きたい! 書かせて下さい! と思ったし本人にも言ったのだけど、色々あって別の人が書くことになって。あーあ、とガッカリしてたら、また色々あって私が書くことになった瞬間の喜び。

 

 あの素晴らしい衝撃と喜びを二度三度。この先にも味わいたかった。

 

 昨今のエロゲー界の様子からして、私と彼が組んでエロゲーを作ることは二度と……いや当分はなさそうだったけど(いつでも可能性だけはあったからね!)……それでもお互い生きていれば、瓢箪から駒でひょっとしてひょっとするとあったかもしれないのに。突然、彼のところから衝撃的な企画書が飛びだすことだってあったかもしれないのに。

 

 全ての可能性はなくなってしまった。

 この世界からいなくなってしまってはどうしようもない。

 

 いなくなってしまった人達の顔を思い浮かべる。

 浮かぶ顔は、みんな元気そうで若い。可能性できらきらしていた。

 あの人達とならなんでも出来そうな気がした瞬間が確かにあった。

 何か新しい素晴らしいものが出来そうな。

 まぼろしだったかもしれないけれど、あったのだ。

 

 だけど彼らはもういない。

 

 荒縄猫太もいない。

 三ツ矢新もいない。

 キリヤマ太一もいない。

 T所さんもいない。

 

 知り合いではないけれど、吾妻ひでおもいない。

 

 みんな早すぎるよ。