丸谷秀人のブログ

エロゲシナリオライター丸谷秀人の棲息地。お仕事募集中

ポケポケしている人を捜して

 ひさしぶりに外へ出る。

 小さな橋を渡り一番近いコンビニへ向かう。

 ちょっとだけ楽しみにしてることがあったのだ。

 あちこちでポケモンをゲットしている人達が、ポケポケしている光景が見られると。

 テレビやネットでは、いたるところで人が固まってポケポケしているのだから、きっとうちの近所でも固まってポケポケしているはずなのだ。1度は見ておかねば。

 

 コンビニについてしまったがポケポケしている人は見かけない。

 仕方がないので、もうひとつ先のコンビニへ向かう。どうせ急ぐ用でもないのだし、終わったら帰るだけなのでいくらでも徘徊してられるのだ。不審者として警官に見咎められない限りは。

 

 これには根拠がないわけではない。はるか昔この国でワールドカップというものがあって、町の住人より多くの警官が立っていた時に、ナップザックを開けろと迫られたことがあったのだ。おそらく外から見てナップザックが不自然な形に膨らんでいたからであろう。私が怪しいからでは断じてない、と思いたい。

 別に強制力はないそうなので逆らってもよいらしいのだけど、そうしたら殴られるかもしれないしイチャモンをつけられるかもしれないし隠しカメラかなんかで記録されて不穏分子扱いされブラックリストに載せられるかもしれないから小心で反骨心がない私は逆らわなかった。実のところ少々逆らいたかったのだが仕方がない。

 中には財布とカバーがかかっていない文庫本とカバーがかかった文庫本とアキハバラで買ってきたフィギュアが入っていた。うん、やましいところはない全て合法である。警官はにこにこほほえみを浮かべながらカバーを外して、と言ってきた。私は仕方なくカバーを外してみせた。黒い本だったつまりエロ小説だった確か未亡人をあれこれしてあんあんさせて縛って釣って剃って全財産を奪って裸で夜の商店街を走らせたりする類のやつである。表紙もいかにもそれっぽかった。その時のなんとも言えない空気は決して忘れないであろう。忘れたいけどな! フィギアの方はごくごく健全でスカートが短くて下から覗くとパンツが見える系だったからセーフだろう(なにが?)

 

 幸いにして警官の姿はなく、ほてほてと歩いているうちに次のコンビニにもついてしまった。ポケモンをポケポケしている人は見あたらない。まぁアレだ。私が住んでいるような町だからきっとイケてない時代から取り残された町なのだ。だからポケモンが少ししか生息していないのだろう、多分。

 そういうわけで次のコンビニへ向かった、駅前だからもっと賑やかであちこちでポケポケしている人がいるはずだ、と思ったのだけど、やっぱりポケポケしている人達には出逢わない。このさい人達でなくても人でもいいんだけど、それでもいない。仕方がないというわけで次のコンビニへと向かう。

 歩きスマホをしている人にはなんども出逢ったのだけど、みな黙々と歩きスマホしているだけで、ポケモンをポケポケしているかは判らない。すれ違いざまに人のスマホを覗くような器用さを私に期待しても無駄である。そんなことを試みたら前から歩いて来た人とぶつかるのがオチである。そして因縁をつけられて、骨折したと言われて多額な賠償金を請求されローンとかいう横文字の仮面をかぶった高利貸しで限界まで引き出すように迫られたあげくに、身ぐるみ剥がされて内臓を抜かれてしまうのだ。知らないうちに生命保険に入らされているのは常識である。

 

 次のコンビニについたが、出逢わない。

 この国のいたるところでポケポケしているはずなのに、私が住んでいる町は取り残されて夕暮れの中でひとり寂しくたたずんでいるのか、それとも、私は別の国に住んでいるのだろうか。

 

 ああ、いったいポケモンはどこにいるのか。

 

 そうしたらなんと、目の前の信号待ちの人がスマホを熱心に見ているではないか! あの真剣なまなざし、まちがいない。しかも後ろから覗ける位置! ついに私もポケポケしている人を見つけられたぜゲットだぜ! 興奮を懸命に押し隠しながらその人のスマホを覗き込んだ。

 

 彼女は畑からキャベツを収穫すると、うふふ、と笑った。

 

 違うゲームだった。

 

 気落ちした私の耳元で声がした。

 

「なにをしているんですか?」

 

 振り向くと警官が立っていた。にこにことほほえんでいた。 

 背後から女性のスマホ画面をガンミしている不審な男! すなわち私!

 うろたえた私は、咄嗟にポケモンをゲットしているのかと思って思わず……。と正直に答えてしまった。

 

 警官は苦笑いを浮かべて、誤解をまねくようなことは謹んでくださいね、と言って、あっさりと立ち去って行った。

 

 呆然と立ち尽くして取り残された私は不意に気付いた。

 そうか、私のような胡乱な行動をしている人間はごろごろいるのだ。そうでなかったらこんなにさっさと解放してくれるわけがない。

 

 つまり

 

 この町のあちこちにポケモンをポケポケしている人を捜している暇人がいるんだ! 私はひとりぼっちではなかったのだ。

 

 ポケモンは見あたらなかったが、なんだか楽しい気分で家へ戻った私は、用事を忘れていたことに気付いて、もう一度外出するはめになったのだった。