ウィンウィン
人生、あまりに本が増えて増えて、気がつけば、本棚からも押し入れからも溢れた本が崩れるのにおびえながらその谷間で寝ている時がある。
旅立ちの季節がやってきたのだ。
だがこの旅立ちが難しい。
別れがたい本は多く、間違って手に取って読み返しでもすれば、胸いっぱいに思い出が蘇り、ときめきまくり、私と本は旧交をあたためあい、お互い別れが惜しくなり、しっかりと手を取り合い、旅立ちをやめてしまうのだ。
ああ、もっともっと広い収納スペースが欲しい!
だが、そんな時、まっさきに旅だってくれるナイスな奴らがいる。
推理小説だ。
彼らの大部分は後も振り返らず、玄関で出航の時を待つダンボールの中へと乗り込んでいく。送るこちらも、引き留める気は全く起きない。
お互いなんの未練もなく、さっぱりとしたものだ。
なんでだろう?
読み終わった推理小説はネタが判ってしまった手品みたいなものだからだろうか?
というわけで旅立ちの季節には、推理小説に感謝。
彼らは私を安全にしてくれるし、私は彼らに彼らが好きな人と出会うチャンスを提供出来るわけだ。ウィンウィンである。
だけど問題は、私の周りに集まった本の中で、推理小説はほんの僅かな割合しかないってことだ。彼らが旅だった後には、お互いときめいてしまい送り出すことも旅立つことも出来ない私と大量の本が残されている。
そして恐怖の夜が来る。
私は地震で愛しい本達がなだれ落ちて来て圧死する未来に怯えながら寝るのだ。
まぁ寝れば忘れちゃうんだけどね。