丸谷秀人のブログ

エロゲシナリオライター丸谷秀人の棲息地。お仕事募集中

墓地へ行って、墓をあけた 前編

 墓地へ行って、墓をあけた。

 盗掘ですか?

 いえ、頼まれ事です。

 とはいうものの、貴重な経験だなと思ってホイホイ行ったのは本当だ。

 

 それほどつきあいのない親戚のひと(葬儀にも行かないで済む程度の親戚といえば、どれほどつきあいがないか判るだろう)が亡くなって、つきあいもないので、はぁそうかぁ、もうそんな歳だったのか、というくらいの感慨しかなかった。第1、顔さえ思い出せない。

 だが、この人の息子とは少しだけ縁があった。歳が近い親戚が私らしかいなかったというのが唯一にして最大の原因だろう。といっても年賀状のやりとりがあり、年に1回くらいは話す事もある、という程度だったけど。

 そんなわけで連絡があった時には驚きはなかったんだけど、 

「高いんだよ」「なにが」「墓あけんのって」「はぁ? 誰のだよ」「親父が死んでさ」「はぁ!? っていつだよ」「うーんちょっと前」

 いきなりでわけがわからない、というのはいつもの事なので、詳しく聞いてみると、父親の骨壺を墓にいれるのに高い金がいるんだという。実はこの時はじめて、くだんの親戚が亡くなったのを知ったのだ。連絡くらいしろよ。

 まぁ、ほとんど知らない親戚どもと同席するのは苦痛なだけだし、故人について話すような思いでもないんで、手間がはぶけたという思いもないではなかったが。

「骨壺墓にいれるだけで業者呼ばなきゃいけなくて7万だか8万かかるんだぜ」「それくらい掛かるだろ、特殊な職業なんだし」「開けて入れて閉めるだけじゃねぇか」「ああいうのって、管理事務所とかを通さないと出来ないから、業者がもれなくついてくんのは仕方ないだろ」「やだー、金払いたくねぇ。でもオヤジの骨壺と一緒に暮らすのもいやだぁ。いっそ捨てちまうか」「こらこら」

 その時、ふと思いだした。

 昔、見たテレビドラマで、墓の中に死体を隠す話があった。それも犯人1人で。

 つまり、開けられるということだ。

「……開けるならできるかもしれん」「だろーそうだろーそんな気がするんだよ」

 俺はその場で、ネット検索してみた『墓 開ける 納骨』だったと思う。

「ほー。あの骨壺いれる空間てカロートっていうんだ」「よく知ってるな」「今、ネットで調べた」「で、どうやってあけんだよ?」「待て待て、どうやってかは知らんが、自分で開けて納骨というのはありらしい。管理事務所に話はしないといけないが」「こっそりやっちまえばいいって」「よくないだろ」

 もうちょっと調べる。具体的な方法は……。

 なるほど。これなら力仕事だができそうだ。

「どういう形の墓なんだ?」「ごくふつーの墓だよ。冷蔵庫の形とかしてねーし」「なんで冷蔵庫なんだよ」「親父冷えたビール好きだったから」「冷えたビールがないなんて、か。じゃなくて、あれか、墓石の前に平たい石があって、そこに立って拝んだりするタイプか?」「そうそう。それそれ」「じゃなんとかなるかも。その石をどければカロートがぱっくり口を開くと思う。多分」「じゃあ明日来て」「は?」「明日49日だから」「ってちょっとおい」

 切りやがった。

 と思ったらメールが来て、最寄り駅までの最短ルートを送ってきやがった。いくのはウン十年ぶりなんでありがたいが、行くの前提になってるのがムカツク。誰が行ってやるかてめーで調べててめーでやれ。

 

 というわけで、次の日の約束の時間、私は最寄り駅のロータリーにぼさっと立っていた。まさに相手の思うつぼというやつである。

 

 墓を開けるなんて、そうそう出来る経験じゃないよな。

 それに、なんかネタになるかもしれないじゃないか。

 とシナリオライターの職業病がささやきやがったのだ。

 

というわけで長くなったので後編へ続く